11月11日(木)~12日(金)の2日間、韓国・ソウルのCOEX会議場にて、G20首脳会議(G20サミット)が開催されます。「動く→動かす」は、G20サミットについて、G8サミットや、今年9月に開催された国連MDGsレビュー・サミットなどとともに、世界の貧困問題について大きな影響を及ぼす会議と考え、積極的に働きかけを行ってきました。G20ソウル・サミットは、世界の貧困にどのように関係しているのでしょうか。
「G20」という枠組み自体は、1997年にアジア諸国を襲った通貨危機の後、1999年から、これらの国々の財務大臣と中央銀行総裁を集める会議として、年に一度行われてきましたが、現在ほど世界的な注目を集めることはありませんでした。
しかし、2008年秋のいわゆる「リーマン・ショック」をきっかけに世界規模の金融危機がぼっ発してからは、この枠組みでの首脳会議(首相や大統領による会議)が行われるようになりました。金融危機で主要先進国の経済が計り知れないダメージを受けたことで、これまで世界経済を仕切ってきた主要8ヵ国(G8)の国々(米・欧・日の三極)だけではこの危機を克服できないとの認識から、いわゆる「新興国」の首脳も含めて、2008年11月、米国・ワシントンにて最初のG20サミットが開催されたのです。その後、G20サミットは2009年、2010年に春と秋の2回ずつ開催されてきました。
G20には、各地域から多様な国々が参加しています。
◆G20参加国一覧
・アジア・太平洋地域:インド、インドネシア、オーストラリア、韓国、中国、日本(6ヵ国)
・中東・北アフリカ地域:サウジアラビア、トルコ(2ヵ国)
・ヨーロッパ地域:イタリア、英国、欧州連合、ドイツ、フランス、ロシア(6ヵ国・地域)
・サハラ以南アフリカ地域:南アフリカ(1ヵ国)
・北米地域:カナダ、米国(2ヵ国)
・南米地域:メキシコ、ブラジル、アルゼンチン(3ヵ国)
(地域ごと50音順)
アフリカや東南アジア、地域機構からの参加が少ないことから、これからは、さらに5ヵ国・地域を招待して開催されるのが慣例となりそうです。また、2011年からは、年1回の開催に変わります。2011年はフランス、12年はメキシコが議長国を務めます。
2008年の「世界金融危機」を乗り切るには、旧来の主要先進国だけでなく、中国・インド・ブラジルなど、大きく成長してきた「新興国」の力が必要だったからです。90年代以降の経済のグローバル化の中で、米・欧・日の主要先進国と、これまで途上国とみなされてきたいくつかの国との経済力の差が縮まり、相互依存関係が深まりました。例えば、中国はすでに世界第2位、インドは世界第4~5位の経済規模を持っています。その結果、米・欧・日のみが参加するG8サミットなどだけでは世界の経済運営が困難なことは、数年前から指摘されてきましたが、「世界経済危機」をきっかけにG20を首脳級に格上げすることで、G20を軸とした世界経済の運営・調整体制が確立されたわけです。
2000年以降、G8サミットでは、途上国への援助や貧困をなくすための「ミレニアム開発目標(MDGs)」の推進、近年では気候変動など、地球規模の社会問題が主要テーマに掲げられるようになってきました。G20では、「世界経済危機をどのように克服し、安定した新たな経済秩序を作っていくか」を中心に、これまでは議論がされています。
しかし、主要国が一旦危機を乗り越えつつあるとの認識から、今回のソウル・サミットでは、これまでの緊急事態対応ではなく、より恒久的な役割を模索した議題設定がされており、議長国の韓国は、G20サミットでは初めて、「開発」を中心議題の一つに据えています。
2008年の「世界経済危機」前には、一部のG8諸国の首脳などから「G8を拡大してG13にしたい」という意見が出されていました。そのため、G20サミットが開催されるようになった直後は、G20がG8にとって代わるのではないかと言われたこともあります。しかし、G20構成国の間には、G8諸国間に比べて経済発展の度合いなどに大きな開きがあり、例えば気候変動問題など、G8諸国と新興国(中国など)の間で意見が大きく対立する問題が多いことが明らかになりました。その結果、G8諸国の間にも、先進国間の協調を維持するためにG8の枠組みが必要だという考えが強くなってきています。したがって、実際の影響力や実効力の点では、G8よりもG20に軸足が移る流れは変わらないものの、しばらくはG8も継続して存在することになると思われます。
「世界金融危機をどう終わらせ、世界経済をどう立て直していくか」という問題は、途上国の貧困と非常に大きくつながっています。
「貧困」と「世界経済」は、切っても切れない関係にあります。例えば、国際貿易のルールが先進国の利害に偏りすぎており、過去に先進国が経済発展する段階で国内産業を育てるために用いた政策を途上国は使えず、貧困の大きな原因となっている不公正さを、世界中のNGOなどが指摘しています。また、90年代、世界銀行や国際通貨基金(IMF)などの国際金融機関が、「財政健全化」や「民間活力の導入」などの名の下に途上国に課した政策は、教育や保健など、特に貧困の下に暮らす人々にとって死活的な部門への予算支出を厳しく制限しました。その結果、アフリカを始め、多くの国々で貧困が深刻化し、内戦などの原因にもなりました。また、2008年以降に発生した、投機的な金融活動などによる食料や燃料価格の高騰は、飢餓人口が史上初めて10億人を突破する原因となりました。昨今、気候変動が原因で異常気象が多発し、特に途上国の農民を始めとする人々の生計に大きな打撃を与えていますが、気候変動の主な原因はG20諸国の経済活動です。それ以外にも、世界経済危機による輸出、仕送り金、政府の公共予算の縮減など、「貧困」と「世界経済」の関係の例を挙げればきりがありません。
G20サミットでは、このような途上国の経済全体に影響を及ぼす「世界経済のルール作り」について討議されます。現在生じている貧困を減らしていくためには、「開発援助」や「ミレニアム開発目標(MDGs)」などへの取り組みを強化する必要があります。一方で、そもそも貧困を生まない世界を作るためには、貿易や投資、国際金融機関のあり方や気候変動への取り組みなど、G20が進める「世界経済のルール作り」に、私たちはもっと注目していく必要があるのです。
G20では、2009年のピッツバーグ・サミット以降、今回の危機を生んだ金融セクターに何らかの課税をし、各国政府が危機対策に投じた膨大な公的資金を回収し、将来同様の危機が起こるのを防ぐ必要があるとの認識から、金融取引に税金を課す「金融取引税」が議論されてきました。金融取引税には、課税対象となる金融活動の範囲、税率、導入は国別でよいか、それとも世界同時に行うべきかなどを含め、国際通貨基金(IMF)、NGO、著名な経済学者などから様々な研究、提言がされていますが、最も重要なことは、過去数十年間、金融界の意向を最も優先してきた主要国の首脳の間でも、金融セクターへの課税が現実味を持って議論されるようになってきているという潮流の変化です。
一方、世界経済のいびつな構造が生み出している、貧困、気候変動、生物多様性の損失など、山積する地球規模の社会問題を解決するためには政府開発援助(ODA)だけでは到底足りないことが明らかになっており、解決のための資金をどのように調達するのかは、世界の緊急課題です。そこで、これらの問題に取り組むNGOや社会運動などの間でここ数年大きく注目されているのが「国際連帯税」という考えです。すでにフランスや韓国などでは航空券に課税する方法が導入されており、日本でも航空券税や通貨取引への課税などが政府で検討されるようになってきました。
このため、G20で金融セクターへの課税が議論されるようになって以降、これらのNGOなどは、国際連帯税を主要国の金融センターで導入すること、そしてその一部を貧困や気候変動などの解決のための資金として活用することを求めて大きなキャンペーンを行っています。キャンペーンには、「動く→動かす」も賛同しています。
http://www.acist.jp/images/stories/G20Take_Action_on_Financial_Transaction_Taxes.pdf)。
G20の中では金融取引税について根強い反対論もあるため、残念ながら今回のG20サミットでは主要テーマにはなっていません。しかし、国際連帯税に熱心なフランスが議長国となる来年は、何らかの進展が見られるのではないかとも期待されています。なお、日本政府(外務省)は現在、国際連帯税については、各国の立場を見極めつつ、推進の方向で取り組もうという立場をとっています。
今回のG20サミットでは、議長国の韓国が「G20で取り上げてきたこれまでのテーマに加えて“途上国の開発”を新しく主要議題に加えよう」と提案し、認められました。そのため、「途上国の開発」は新たに主要議題となることになりました。
韓国政府が「途上国の開発」の基本的な考え方として出してきた最初の提案は、「インフラや産業育成などを通じた経済成長の推進」を中心とするものでした。途上国の貧困の解消にとって、インフラ、産業、経済成長が必要であることは事実であり、G20がこの側面に注目すること自体は理に適っています。しかし、この韓国の動きと必ずしも関連があるわけではありませんが、過去10年間にG8や国連などで議論されてきた教育や保健医療などの「社会開発」中心の開発論議を「途上国の自立につながらない」「援助は効果を生まない」などのように切り捨てて、「新しい開発戦略」として韓国政府の提案を推進する動きもあります。このような動きとG20での「経済成長中心の途上国開発」の流れがつながることに、「動く→動かす」や世界の市民社会は強い懸念を持っています。
歴史を少し振り返ってみます。経済成長を重視した開発戦略は特に新しいものではなく、90年代までは世界の開発戦略の中心でした。しかし、1981年から2001年までの間に世界経済は19兆ドルも拡大したにもかかわらず、世界人口の6人に1人を占める極度の貧困状態にある人々に届いた恩恵がこのうちわずか1.5%だったといわれていることから明らかなように、成長のみを追求する政策はすでに失敗しています。そればかりか、この過程で保健や教育が軽視されたことによって、経済的、社会的に不利な立場におかれた人々の貧困はむしろ深刻になりました。
2000年以降に社会開発重視の戦略が国連で採択され、G8も重視するようになったのは、この反省によるものです。その結果、多くの途上国で社会基盤が整備され、アフリカを含む多くの国々が、ようやく経済成長への足がかりをつかみつつあります。しかし、世界経済危機がここに暗い影を投げかけている、というのが現状です。
これらをふまえると、G20が単に社会開発を軽視し、経済開発に偏った形で開発議論を進めることは、「先祖返り」になる危険性があり、適当とはいえません。G20の「開発」テーマについては、貧困層のためになる成長とはどのようなものか、保健や教育の拡充・小規模農家への支援などが格差を生まない成長の実現に果たす役割とは何かなど、よりバランスのとれた議論がされることが必要です。また、G20が世界経済の仕組みに与える影響力を考えると、Q4やQ5で触れた途上国の成長や貧困削減に寄与する貿易のあり方、国際金融機関の改革、金融取引税の導入などをどこまで踏み込んで議論できるかが、問われています。
G20ソウル・サミットは、G8ではない国が議長国となって開催する初めてのサミットです。市民社会でも、G8以外の国の市民社会として初めて、韓国の市民社会が中心となってG20に取り組んでいます。
韓国の市民社会は、「GCAP韓国」を中心に、2010年初頭から、国内外でのネットワーク作りやキャンペーン、政府との対話などを進めてきました。民主化運動の伝統や様々な社会運動に鍛えられ、世界の中でも大きな規模と潜在力をもつ韓国の市民社会は、G20への取り組みの中で国際的にも経験を積み、この10月には、G20諸国のシェルパ(=G20首脳の個人代表として、G20プロセスを仕切る各国政府の代表)と世界の市民社会の対話の機会である「Civil G20対話」を世界で初めて開催、成功させました。また、国内問題に取り組む寄り広範な市民社会組織とも連携し、「人々を第一に」(Put People First)をスローガンに、「G20対応・市民行動委員会」(People's G20 Action Committee)を設立し、「オルタナティブ・サミット」や、市民によるマーチ、デモなども開催する予定となっています。
私たち「動く→動かす」は、2008年にG8洞爺湖サミットを経験した日本の市民社会という立場から、その経験を「GCAP韓国」などに伝え、また、G8諸国の市民社会などと韓国の市民社会との橋渡しをする役割を積極的に果たしてきました。7月にソウルで開催されたG20向け市民社会フォーラムには、事務局長の稲場雅紀と、政策チームリーダーの山田太雲(オックスファム・ジャパン)らが参加。洞爺湖サミットの経験を共有し、G20サミットに向けた戦略について積極的に意見交換をしました。また、Civil G20対話にも参加し、G20に向けた取り組みの成功に向けて「GCAP韓国」と積極的に協力しています。G20ソウル・サミット本番には、山田太雲が、オックスファムの国際派遣団の一員として参加します。このWEBサイトでも、Twitterなどで現地から情報をお伝えします。ご期待ください。
以下の3点に注目してください。
◆1.「開発」について、途上国の貧困をなくしていく上で、前向きな政策が出てくるかどうか。
単に「インフラ」や「貿易」だけでなく、保健や教育、農業なども含んだ人材の開発や能力強化について、前向きな政策が示せるか。また、貧困・格差を生まない成長の実現のための「政府」の積極的な役割を位置付けた開発戦略に合意できるか。さらに、特に食料安全保障などに関して、G8諸国がG20 をかくれみのにして、過去の援助公約を果たさない、といったことを防げるかどうか、等々。
また、G20としては、今後、低所得国もメンバーに加えた常設の「開発ワーキング・グループ」が設けられることになるが、その中身がどうなるか。
◆2.金融セクターを対象とした税などについて、来年のフランスでのG20サミットに向けて、議題にすることを確認するなど、前向きな姿勢が打ち出されるかどうか。
◆3.その他、経済危機の克服や、国際金融機関(IMFなど)の改革、租税回避地の規制などの金融規制において、途上国の貧困をなくす上で重要な方針が打ち出されるかどうか。
G20サミットに、ぜひともご注目ください。
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